火之迦具土神(ヒノカグツチ)とは?母を死なせ、斬られて神々を生んだ火の神は悪役なのか【古事記】

火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)のアイキャッチ画像

火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)は、『古事記』の神生み(かみうみ)の段で、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)が最後に生んだ火の神です。『古事記』はこの神を火之夜芸速男神(ひのやぎはやをのかみ)の名で登場させ、亦の名として火之炫毘古神(ひのかがびこのかみ)と火之迦具土神という二つの名を添えています。三つの名前がありますが、三柱の神ではなく、一柱の神の別名です。この神が生まれたことで伊邪那美命は体を焼かれて病み、やがて亡くなり、悲しんだ伊邪那岐命は剣を抜いて子を斬ります。しかし、その血と体からは16柱もの神々が生まれ、物語は黄泉国(よみのくに)へと進んでいきます。この記事では、誕生から剣の場面までを順にたどり、神名の読み解き、『日本書紀』の軻遇突智、神話の意義をめぐる諸説、そして「火の神は悪役なのか」という問いを確かめます。

https://www.youtube.com/watch?v=Tnpe5_r6ZFg
目次

1. 火之迦具土神とは(基本情報)

項目内容
神名(古事記)火之夜芸速男神。亦の名 火之炫毘古神、火之迦具土神。斬られる場面では迦具土神
神名(日本書紀)軻遇突智(かぐつち)。火産霊(ほむすひ)、火神とも書かれる
読みひのかぐつちのかみ。別名は ひのやぎはやをのかみ(現代仮名遣いでは ひのやぎはやおのかみ)、ひのかがびこのかみ
親神(生まれた由来)伊邪那岐命・伊邪那美命。二柱が直接生んだ神としては17番目で、神生みの最後
誕生の場面『古事記』上巻「神生み」の末尾。鳥之石楠船神・大宜都比売神の直後
前後の神前: 大宜都比売神(おおげつひめのかみ)/ 次: なし。この神で神生みが終わる
神格・性格火の神。誕生で母を病ませ、父に斬られ、その血と体から剣の8神・山の8神が生まれる
別名や同一視される神火之夜芸速男神・火之炫毘古神は同一神の別名。『日本書紀』の軻遇突智・火産霊と同じ神と見なされる

火之迦具土神は、神生みの列の一番最後に置かれた神です。伊邪那岐命と伊邪那美命は、住居の神々、海と水の神々、風・木・山・野の神々、船の神、食物の神と生み続け、その締めくくりに火の神を生みます。この神の誕生が二柱の運命を変え、母である伊邪那美命は火に焼かれて病み、ついに神避(かむさ)ります。

ただし、『古事記』の話はそこで終わりません。病んだ伊邪那美命の体からは金属や土や水の神が、伊邪那岐命の涙からは泣沢女神(なきさはめのかみ)が、斬られた迦具土神の血と体からは16柱の神が生まれます。火之迦具土神は、神生みを終わらせた神であると同時に、次の神々の世界を開いた神でもあります。

2. 『古事記』にはどう書かれているか

誕生から剣の場面までは一続きの流れです。5つに分けてたどります。

神生みの最後に生まれる

鳥之石楠船神(とりのいはくすふねのかみ)と大宜都比売神を生んだあと、『古事記』は次のように記します。

次に火之夜芸速男神を生みき。亦の名は火之炫毘古神と謂ひ、亦の名は火之迦具土神と謂ふ

現代語に直すと、次に火之夜芸速男神を生んだ。別名を火之炫毘古神といい、また別名を火之迦具土神という、となります。この神には二つの別名が並べられていますが、直後の文からは「火の神」「迦具土神」と呼ばれ、最初の名である火之夜芸速男神はもう使われません。

誕生と母の病、病中に生まれた神々

火の神を生んだことで、伊邪那美命は体を焼かれて病の床に伏します。『古事記』はその病中にも神が生まれたことを記します。嘔吐したものから 金山毘古神・金山毘売神(かなやまびこのかみ・かなやまびめのかみ)が、排泄したものから、それぞれ 波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神(はにやすびこのかみ・はにやすびめのかみ)、弥都波能売神(みつはのめのかみ)と 和久産巣日神(わくむすひのかみ)が生まれ、和久産巣日神の子が 豊宇気毘売神(とようけびめのかみ)であると添えられます。

金山は金属の精錬、波邇(埴)は土器の粘土、弥都波は水、産巣日は生成の力と解されていて、病み苦しむ母の体から、暮らしの土台になる神々が生まれたことになります。この並びをどう読むかは第4節で扱います。

伊邪那美命の神避りと泣沢女神

そして、『古事記』は伊邪那美命の最期を次の一文で記します。

故、伊邪那美神は、火の神を生みしに因りて、遂に神避りましき

こういうわけで伊邪那美神は、火の神を生んだことによって、ついに神避りになった、という意味です。「神避る」は神が姿を隠す、亡くなることを表す言葉で、『古事記』はここで直接的な語を避けています。なお、この場面の原文では「伊邪那岐命」「伊邪那美神」と、命と神が使い分けられています。

伊邪那岐命は嘆いて言います。

愛しき我が汝妹の命を、子の一つ木に易へつるかも

愛しい我が妻を、たった一人の子と引き換えにしてしまったことか、という嘆きです。「一つ木」は「一人」を意味する古い数え方と解されています。伊邪那岐命は妻の枕元と足元に腹這って泣き、その涙から泣沢女神が生まれます。『古事記』はこの神が香山(かぐやま)の畝尾(うねを)の木の本に鎮まると記しています。

故、其の神避りし伊邪那美神は、出雲国と伯伎国との堺の比婆の山に葬りき

神避った伊邪那美神は、出雲国と伯伎国(ほうきのくに)の境にある比婆の山に葬った、という意味です。神生みの物語は、こうして幕を閉じます。

父が剣を抜く:剣に関わる八柱

妻を葬った伊邪那岐命は、次に子に向かいます。

是に伊邪那岐命、御佩せる十拳剣を抜きて、其の子迦具土神の頸を斬りたまひき

ここで伊邪那岐命は、腰に佩いていた十拳剣(とつかのつるぎ)を抜いて、その子である迦具土神を斬った、という意味です。『古事記』はこのときの伊邪那岐命の言葉を記していません。そして、この剣の場面からも、血の付いた場所ごとに8柱の神が生まれます。

剣の部位生まれ方神名読み
剣の先の血湯津石村(ゆついはむら。神聖な岩群)に走り着く石拆神いはさくのかみ
〃〃根拆神ねさくのかみ
〃〃石筒之男神いはつつのをのかみ
剣の本(もと)の血岩群に走り着く甕速日神みかはやひのかみ
〃〃樋速日神ひはやひのかみ
〃〃建御雷之男神たけみかづちのをのかみ
剣の柄(つか)に集まった血指の間から漏れ出る闇淤加美神くらおかみのかみ
〃〃闇御津羽神くらみつはのかみ

『古事記』はこの8柱をまとめて、次のように締めくくります。

上の件、石拆神より下、闇御津羽神より以前、并せて八神は、御刀に因りて生れる神ぞ

以上の石拆神から闇御津羽神までの合わせて8柱の神は、剣によって生まれた神である、という意味です。このうち建御雷之男神は、亦の名を建布都神(たけふつのかみ)、豊布都神(とよふつのかみ)といい、後に国譲りの使者として出雲へ降る神です。火の神を斬った剣の血から、後の物語の主役級の神が生まれていることになります。なお、このとき使われた剣の名は天之尾羽張(あめのをはばり)、亦の名を伊都之尾羽張(いつのをはばり)と記されています。

身体から広がる山の八柱

さらに、斬られた迦具土神の体からも神が生まれます。部位ごとに8柱、すべてが「山津見」の名を持ちます。

部位神名読み
頭正鹿山津見神まさかやまつみのかみ
胸淤縢山津見神おどやまつみのかみ
腹奥山津見神おくやまつみのかみ
陰闇山津見神くらやまつみのかみ
左手志芸山津見神しぎやまつみのかみ
右手羽山津見神はやまつみのかみ
左足原山津見神はらやまつみのかみ
右足戸山津見神とやまつみのかみ

名義ははっきりしていませんが、部位と関わっているらしいことは読み取れます。横たわった巨人の姿を山になぞらえ、胸や腹が山の奥、手足が山裾を表すと読む説(中西進)や、火の神から山の神々が生まれる筋立てを火山と関わるものと見る見方があります。いずれも解釈です。

なお、これらの山津見神は、神生みの第2群で生まれた山の神 大山津見神とは別の神々です。大山津見神が山一般を代表する神であるのに対し、こちらは山の部位ごとの限定的な神と解されています。大山津見神

こうして場面は終わります。病中の6柱、涙の1柱、剣の8柱、体の8柱で、合わせて23柱の神が、神生みの最後の一柱をめぐって現れたことになります。

3. 神名の意味

『古事記』は神名の由来を説明していません。以下は、注釈書や神名研究に見える解釈です。

「カグ」は火の揺らめきか、輝きか、匂いか

「迦具土(かぐつち)」の「ツ」は「〜の」を表す古い助詞、「チ」は神霊を表す語と解されています。合わせて「カグの神霊」です。問題は「カグ」の意味で、いくつかの説があります。

一つは、カガヨフ(ほのかに光る)、カゲ、カギロヒ(陽炎)などと語根を共有し、光や火がほのかにちらちらと揺れるさまを表すとする説です。もう一つは、輝く意とする説です。ただ、上代では「カカヤク」と清音であったため、濁音の「カグ」とは別の語だという批判があります。三つ目は、「香(かぐ)わしい」、つまり物が焼けて匂いが立つことを表すとする説です。火の光と見るか、火の匂いと見るかで読みが分かれますが、どれも火の性質を名に取り込んだ理解である点は共通しています。参考になる言葉として、『日本書紀』の神武天皇即位前紀に見える「厳香来雷(いつのかぐつち)」や、『延喜式』神名帳に載る香都知(かぐつち)神社の名が挙げられます。

三つの名前の新旧

「夜芸速男(やぎはやを)」「炫毘古(かがびこ)」は、いずれも「男」「彦」という人格を表す語を含んでいます。これに対して「迦具土」は「チ」という神霊を表す語で終わる、自然的で原始的な神霊観の名です。そのため、「迦具土」が三つのうちで最も古い名で、人格的な二つの名はあとから付けられたとする説があります。『古事記』が途中から「迦具土神」だけを使うことも、この見方と合います。

性別をめぐる問題

火之迦具土神は「速男」「毘古」の名からも男神とされます。ただ、斬られた体の「陰」から闇山津見神が生まれる記述があり、この点は不審とされて、諸説があります。この記事では深入りしません。

4. 神話の中での役割

神生みを終わらせ、次の物語を開く

伊邪那岐命と伊邪那美命が二柱で世界を作り、神々を生む物語は、この神の誕生で終わります。しかし、それは同時に、伊邪那岐命が一人で黄泉国へ妻を訪ね、逃げ帰り、禊を行って天照大御神(あまてらすおほみかみ)たちを生む、という次の物語の始まりでもあります。火の神は、『古事記』上巻の前半と後半をつなぐ蝶番の位置にあります。

この神話は何を語っているのか(諸説)

火之迦具土神の神話が何を反映しているかについては、多くの説があります。どれも確定ではありませんが、主なものを挙げます。

一つは、発火法の反映とする説です。火鑽り杵(ひきりぎね)を火鑽り臼に立てて回し、摩擦で火を起こす方法を、母の体から火が生まれる形で神話にしたという読みです。二つ目は、火山の噴火の反映とする説で、火の神の体から山の神々が生まれることが根拠とされます。三つ目は、焼畑農耕の反映とする説で、火産霊・火結という「生産」の名、土と水の神、山の神々を、山を焼いて作物を育てる営みと結び付ける読みです。

ほかに、産屋を焼く習俗や、刀剣によって火を鎮める呪法との関係を指摘する説もあり、一つに絞らず火をめぐるさまざまな現象を包括した神話と見る立場もあります。

さらに、生まれた神々の顔ぶれに注目する読みがあります。金山毘古神・金山毘売神は金属の精錬、波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神は土器、火結の名と山の神々は焼畑、剣の血の神々は刀剣の鍛造。火の神をめぐって生まれた神々は、火を使うことで始まった文化のひとつひとつを表している、という解釈です。

火を悪役にしてよいのか

火之迦具土神は、母を死なせ、父に斬られる神です。この筋だけを見れば悪役に見えるかもしれませんが、『古事記』はこの神を悪と呼んでいません。伊邪那岐命の嘆きにも、剣を抜く場面にも、火の神を責める言葉はありません。

そして、この神の最期からは多くの神が生まれ、物語は黄泉国へ、禊へ、三貴子の誕生へと進んでいきます。火之迦具土神は、暮らしを照らす火であると同時に、神々の世界を変えた火でもあると読むことができます。これは考察ですが、原典が火の神を裁いていないことは事実として押さえておきたい点です。

海外の類話

女性の体から火が生まれるという神話は、メラネシア、ポリネシア、南米などに多く見られます。その分布は、殺された神の体から作物が生まれる「ハイヌウェレ型」の神話の分布と重なるとされ、『古事記』でも火の神の直前に生まれた大宜都比売神がその型の神です。また、体の各部位から神々や地形が生まれるという観念は、中国の盤古(ばんこ)や、インドのプルシャの神話にも見られます。大気都比売神

5. 『日本書紀』との違い

『日本書紀』では、この神は軻遇突智と表記され、火産霊、あるいは単に火神とも書かれます。出生の話は神代上 第五段の一書第二から第六に、斬られる話は一書第六から第八に見えます。本文にはこの神の出生も斬殺もなく、すべて一書の伝えです。

一書によって細部はさまざまで、生まれた神々の名や数も一定していません。『古事記』の記述は、こうした諸伝を包括して整理した、最も後期的な形と考えられています。

もう一つ注目されるのが、一書第八です。そこには、斬ったときの血が石や草木に染みたため、草木や砂石が火を含むようになった、という由来が記されています。石を打ち、木をこすれば火が起きる理由を、火の神の血で説明しているのです。ここから、この神話の基本には火の起源を語る話があったと考えられています。

また、『延喜式』に収められた鎮火祭(ひしずめのまつり)の祝詞にも、火結神(ほむすびのかみ)の出生と鎮火の起源が語られています。そこでは水の神、匏(ひさご)、川菜、埴山姫(はにやまひめ)によって火を鎮めるとされ、水と土の神々が火を抑える役目を持つ形になっています。『古事記』が語らなかった「火をどう扱うか」が、祝詞では鎮火の方法として語られているのです。

6. ご利益と信仰

『古事記』の記述から直接読み取れるのは、火そのものの神であることです。ここから、火に関わる仕事、鍛冶や陶芸、竈(かまど)の守りと結び付けて信仰されてきました。

一方で、後世に最も広まったのは、火を防ぐ神、火伏せ・防火の神としての信仰です。秋葉信仰や愛宕信仰がこれにあたり、火を掌る神だからこそ火を鎮めることもできる、という考え方です。ただし、これは『古事記』が述べていることではなく、後世の信仰であることは区別しておく必要があります。

7. 祀られている神社

火之迦具土神を祀る神社として、確かなものを挙げます。

神社所在地祭神と位置づけ
秋葉山本宮秋葉神社静岡県浜松市天竜区春野町火之迦具土大神を祀る。火防の神として全国の秋葉神社の総本宮
愛宕神社京都府京都市右京区嵯峨愛宕町全国の愛宕神社の総本宮。火伏せの神として知られ、若宮に迦遇槌命を祀る

どちらも、火之迦具土神を火伏せ・防火の神として祀る信仰の中心地です。

火之迦具土神を生んだ伊邪那岐命・伊邪那美命を祀る神社は、伊邪那岐命の記事で紹介しています。伊邪那岐命

8. 関連する神々

鳥之石楠船神 は、火之迦具土神の2つ前に生まれた船の神です。船、食物、火という神生み終盤の並びの先頭に立ちます。鳥之石楠船神

大宜都比売神 は、火之迦具土神の直前に生まれた食物の神で、後に須佐之男命に斬られ、その体から五穀が生まれます。大気都比売神

伊邪那岐命 は、火之迦具土神の父で、妻を失った悲しみのうちに子を斬った神です。その後、黄泉国へ妻を訪ね、禊を行います。伊邪那岐命

伊邪那美命 は、火之迦具土神の母で、この神を生んだことで神避り、黄泉国の神となります。伊邪那美命

大山津見神 は、神生みの第2群で生まれた山の神で、迦具土神の体から生まれた8柱の山津見神とは別の神です。大山津見神

神産巣日神 は、造化三神の一柱で、「産巣日」の名を持つ生成の神です。病中に生まれた和久産巣日神の名にも、同じ「産巣日」が含まれています。神産巣日神

金山毘古神・金山毘売神、波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神、弥都波能売神、和久産巣日神、豊宇気毘売神 は、伊邪那美命の病中に生まれた神々とその子、泣沢女神 は伊邪那岐命の涙から生まれた神です。建御雷之男神 は、剣の血から生まれた8柱(剣の八神)の一柱で、後に国譲りの使者となります。

天照大御神 は、伊邪那岐命が黄泉国から戻って禊をしたときに生まれた神で、火之迦具土神の物語はこの神の誕生へとつながります。天照大御神

大事忍男神 は、神生みの最初に生まれた神で、神生み全体の見取り図はこの記事にあります。大事忍男神

神生みが伊邪那美命の神避りで終わった後、伊邪那岐命が禊で生んだ26柱の神々は、一覧記事にまとめています。イザナギの禊で生まれた神々一覧

国生みと神生みで生まれた島と神々の全体は、国生み・神生み(まとめ) の一覧で生まれた順にたどれます。

9. 現代につながる読み方

火之迦具土神の神話から読み取れるのは、「火は、恵みと危うさを一つに持っている」という見方です。火は暮らしを照らし、金属を溶かし、土器を焼き、畑を開きます。同時に、扱いを誤れば家も命も奪います。『古事記』は、その両面を一柱の神の誕生と最期という形で語っています。両方を持ったものとして火を受け止める感覚が、この神話には流れているように思われます。

もう一つは、「終わりが始まりになる」ということです。火之迦具土神の誕生で二柱の神生みは終わりますが、そこから金属や土や水の神が生まれ、剣と山の神々が生まれ、黄泉国の物語が始まり、やがて三貴子が生まれます。大きな喪失のあとに、それまでとは違う形で世界が続いていく。『古事記』は、その姿を火の神をめぐる場面で描いています。

そして、「悪役を決めつけない」ということです。『古事記』はこの神を責める言葉を一つも書いていません。誰かを悪と決める前に、書かれていることと書かれていないことを分けて読む。この神は、そうした読み方を教えてくれる神でもあります。

まとめ

  • 火之迦具土神は、『古事記』で伊邪那岐命・伊邪那美命が神生みの最後に生んだ火の神で、火之夜芸速男神・火之炫毘古神・火之迦具土神の三つの名は一柱の別名です。
  • この神を生んだことで伊邪那美命は体を焼かれて病み、病中に金山毘古神以下6柱が生まれ、ついに神避って比婆の山に葬られます。
  • 伊邪那岐命は十拳剣で迦具土神を斬り、剣の血から石拆神・建御雷之男神など8柱が、体の部位から正鹿山津見神など8柱の山津見神が生まれます。
  • 神名の「カグ」は火の揺らめき、輝き、匂いなど諸説があり、「迦具土」が三つの名のうち最も古いとする説があります。
  • 『日本書紀』では軻遇突智・火産霊と表記され、一書第八の火の起源譚や鎮火祭の祝詞から、火の起源を語る神話が基本にあると考えられています。意義については発火法・火山・焼畑など諸説あります。
  • 原典は火の神を悪と呼んでおらず、その最期から多くの神が生まれて黄泉国の物語へつながります。秋葉山本宮秋葉神社・愛宕神社に火伏せの神として祀られるのは後世の信仰です。

参考文献

  • 倉野憲司 校注『古事記』岩波文庫
  • 次田真幸 全訳注『古事記(上)』講談社学術文庫
  • 三浦佑之 訳『口語訳 古事記[完全版]』文藝春秋
  • 坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋 校注『日本書紀(一)』岩波文庫
  • 西宮一民 校注『古事記』新潮日本古典集成
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