『古事記』は、天と地が初めて開けたときに高天原(たかまのはら)で神が成った、という一文から始まります。最初に成ったのが天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)を筆頭とする造化三神(ぞうかさんしん)で、これに2柱を加えた5柱が別天つ神(ことあまつかみ)と呼ばれます。続いて国之常立神(くにのとこたちのかみ)から伊邪那岐神・伊邪那美神までの12柱が現れ、こちらは神世七代(かみよななよ)と総称されます。この記事では、この17柱を順に一覧表で示し、独神(ひとりがみ)と対の神の区別、神名の意味、『日本書紀』との違い、ゆかりの神社を解説します。
この記事は、天地初発の神々を扱う記事全体の案内役となるまとめ記事です。造化三神や伊邪那岐命・伊邪那美命の詳しい解説は、表のリンクから個別記事へ進んでください。
1. 天地初発とは(『古事記』の冒頭文)
『古事記』上巻の本文は、次の一文で始まります。
天地初めて発けし時、高天原に成れる神の名は、天之御中主神。次に高御産巣日神。次に神産巣日神。此の三柱の神は、並独神と成り坐して、身を隠したまひき
天地が初めて開けたとき、高天原に天之御中主神、高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、神産巣日神(かみむすひのかみ)が順に成り、3柱とも独神として身を隠した、という内容です。「天地初発(てんちしょはつ)」という呼び名は、この「天地初めて発けし時」に由来します。
『古事記』は天地がどうできたかを語らず、天地が開けたときに神が「成った」とだけ記します。「独神」は男女の対をなさない神、「身を隠す」は姿を現さなくなることと解されていますが、具体的な意味には諸説があります。
2. 別天つ神と神世七代 一覧表(17柱)
『古事記』の順序のまま17柱を並べます。区分は原典の呼び名に基づき、造化三神は別天つ神のうち最初の3柱を指す通称です。
| 番号 | 神名(読み) | 区分 | 独神か対か | 記事リンク |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ) | 別天つ神(造化三神) | 独神 | 天之御中主神 |
| 2 | 高御産巣日神(たかみむすひのかみ) | 別天つ神(造化三神) | 独神 | 高御産巣日神 |
| 3 | 神産巣日神(かみむすひのかみ) | 別天つ神(造化三神) | 独神 | 神産巣日神 |
| 4 | 宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ) | 別天つ神 | 独神 | 宇摩志阿斯訶備比古遅神 |
| 5 | 天之常立神(あめのとこたちのかみ) | 別天つ神 | 独神 | 天之常立神 |
| 6 | 国之常立神(くにのとこたちのかみ) | 神世七代 第1代 | 独神 | 国之常立神 |
| 7 | 豊雲野神(とよくものかみ) | 神世七代 第2代 | 独神 | 豊雲野神 |
| 8 | 宇比地邇神(うひぢにのかみ) | 神世七代 第3代 | 対(男神) | 宇比地邇神・須比智邇神 |
| 9 | 須比智邇神(すひぢにのかみ) | 神世七代 第3代 | 対(女神) | 宇比地邇神・須比智邇神 |
| 10 | 角杙神(つのぐいのかみ) | 神世七代 第4代 | 対(男神) | 角杙神・活杙神 |
| 11 | 活杙神(いくぐいのかみ) | 神世七代 第4代 | 対(女神) | 角杙神・活杙神 |
| 12 | 意富斗能地神(おおとのじのかみ) | 神世七代 第5代 | 対(男神) | 意富斗能地神・大斗乃弁神 |
| 13 | 大斗乃弁神(おおとのべのかみ) | 神世七代 第5代 | 対(女神) | 意富斗能地神・大斗乃弁神 |
| 14 | 淤母陀流神(おもだるのかみ) | 神世七代 第6代 | 対(男神) | 淤母陀流神・阿夜訶志古泥神 |
| 15 | 阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ) | 神世七代 第6代 | 対(女神) | 淤母陀流神・阿夜訶志古泥神 |
| 16 | 伊邪那岐神(いざなぎのかみ) | 神世七代 第7代 | 対(男神) | 伊邪那岐命 |
| 17 | 伊邪那美神(いざなみのかみ) | 神世七代 第7代 | 対(女神) | 伊邪那美命 |
別天つ神は5柱すべてが独神です。神世七代は12柱ですが、最初の2柱は独神で1柱ずつ1代、残る10柱は2柱で1代に数えるため、合わせて「七代」になります。第3代から第6代の男女の別は神名の語尾などからの推定で、原典に明記はありません。以下、グループごとに見ていきます。
3. 造化三神(天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神)
最初の3柱は造化三神と総称されます。「造化」は万物を生み出す働きを指す言葉で、『古事記』本文にある呼び名ではなく後世の通称です。
天之御中主神は「天の真ん中の主」と読める名を持ち、冒頭で身を隠したと記されるだけで以後は登場しません。抽象的な神と解され、中世以降は北極星を祀る妙見信仰と習合し、近世の国学では最高神として重んじられました。詳しくは 天之御中主神 の記事で扱っています。
高御産巣日神は、名の「産巣日(むすひ)」が生成の霊力を表すと解されています。身を隠したはずのこの神は、後の物語では高木神(たかぎのかみ)の名で登場し、天孫降臨の場面では天照大御神と並んで指令を出します。思金神の父でもあります。詳しくは 高御産巣日神 の記事をご覧ください。
神産巣日神は同じく「産巣日」の名を持ち、こちらは出雲や地上側の物語に多く関わります。大気都比売の死体から生じた五穀を種にし、殺された大国主神を蘇生させ、少名毘古那神を我が子と認めるなど、生命を育て直す場面で活動します。詳しくは 神産巣日神 の記事で扱っています。
中心の天之御中主神と、高天原と地上の生成を担う2柱の産巣日神という構図は、後の物語から読み取られるもので、冒頭の記述は3柱とも身を隠したとしか述べていません。
4. 別天つ神の残り2柱(宇摩志阿斯訶備比古遅神・天之常立神)
造化三神に続いて、『古事記』は世界の様子を描いたうえで2柱の神を記します。
次に国稚く浮きし脂の如くして、海月なす漂へる時、葦牙の如く萌え騰る物に因りて成れる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅神。次に天之常立神。此の二柱の神も亦、独神と成り坐して、身を隠したまひき
国土がまだ若く、浮いた脂のように、くらげのように漂っていたとき、葦の芽のように萌え上がるものによって宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)が成り、次に天之常立神(あめのとこたちのかみ)が成った、という内容です。この2柱も独神として身を隠しました。
宇摩志阿斯訶備比古遅神の名は「うまし(美称)」「葦牙(あしかび=葦の芽)」「比古遅(男性の尊称)」からなると解され、生命力や生成の象徴と読まれています。『日本書紀』の一書では可美葦牙彦舅尊です。詳しくは 宇摩志阿斯訶備比古遅神 の記事で扱っています。
天之常立神は「天の永久の成立」を表す名と解され、神世七代の最初の国之常立神と天と国で対をなすと考えられます。『日本書紀』の一書では天常立尊です。詳しくは 天之常立神 の記事をご覧ください。
『古事記』はここまでの5柱を次のようにまとめます。
上の件、五柱の神は、別天つ神
「別天つ神」は、それ以後の天つ神とは区別される特別な天の神と解されています。5柱はすべて独神で、高御産巣日神と神産巣日神を除き、以後の物語には現れません。
5. 神世七代(独神2柱と対の神5組)
別天つ神の後、『古事記』は12柱を記して次のようにまとめます。
上の件、国之常立神より以下、伊邪那美神より以前を、并せて神世七代と称す
其の二柱の独神は、各一代と云ふ。次に双べる十神は、各合せて二神を一代と云ふ
国之常立神から伊邪那美神までを神世七代と呼び、独神2柱はそれぞれ1代、続く10柱は2柱ずつで1代に数える、という説明です。
第1代の国之常立神は「国土の永続」、第2代の豊雲野神(とよくものかみ)は「豊かな雲・野」を表す名と解されています。ここまでは独神です。それぞれの詳細は 国之常立神 と 豊雲野神 の記事をご覧ください。
第3代からは男女の対になります。宇比地邇神(うひぢにのかみ)と須比智邇神(すひぢにのかみ)は、名の「ひぢ」が泥土を表すと解されています。詳しくは 宇比地邇神・須比智邇神 の記事をご覧ください。第4代の角杙神(つのぐいのかみ)と活杙神(いくぐいのかみ)は「杭」を含む名で、芽生えを表すと解されています。詳しくは 角杙神・活杙神 の記事をご覧ください。第5代の意富斗能地神(おおとのじのかみ)と大斗乃弁神(おおとのべのかみ)は「斗(と)」を門や場所と見て、性別が分かれてくる段階と読む説があります。詳しくは 意富斗能地神・大斗乃弁神 の記事をご覧ください。第6代の淤母陀流神(おもだるのかみ)は「面(おも)が足る」、すなわち姿が整ったこと、阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)は「あや、畏(かしこ)し」という感嘆と解され、完成への賛嘆を表す名と読まれています。詳しくは 淤母陀流神・阿夜訶志古泥神 の記事をご覧ください。
そして第7代が伊邪那岐神(いざなぎのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)です。この2柱だけが、後に国生み・神生みを行う物語の主役になります。
順に見ると、国土の永続、雲や野、泥、芽生え、性別の分化、姿の完成、そして男女神、という流れです。抽象から具体へ段階を追って生成していく過程と読むのが、注釈書に広く見られる解釈です。ただし語釈はいずれも神名からの推定で、原典は名を記すだけで意味を説明してはいません。
6. 『日本書紀』との違い
『日本書紀』の本文は、天と地がまだ分かれていない状態から語り始め、最初の神を国常立尊(くにのとこたちのみこと)とします。続いて国狭槌尊・豊斟渟尊が現れ、この3柱が独りで化した神とされ、そのあとに泥土煮尊・沙土煮尊、大戸之道尊・大苫辺尊、面足尊・惶根尊、伊弉諾尊・伊弉冉尊の4組が続きます。
つまり『日本書紀』の本文には造化三神が現れません。天御中主尊・高皇産霊尊・神皇産霊尊は一書第四に高天原で生まれた神として見えるにとどまり、可美葦牙彦舅尊や天常立尊も一書に見える神です。
神世七代にあたる部分は、独神が『古事記』の2柱に対し本文では3柱であるなど細部が異なりますが、国常立尊から伊弉諾尊・伊弉冉尊までを七代とする大枠は共通しています。冒頭の神が異なる理由については、定説はありません。
7. ゆかりの神社
別天つ神と神世七代の神々は観念的な神であるためか、主祭神として祀られてきた例は多くありません。祭神が確認できる神社に絞って紹介します。
東京大神宮(東京都千代田区)は、天照皇大神・豊受大神とともに造化三神を祀っています。四柱神社(長野県松本市)は、天之御中主神・高皇産霊神・神皇産霊神・天照大神の4柱を祀ります。
天之御中主神は妙見信仰と習合したことから千葉神社(千葉県千葉市)に天之御中主大神として祀られ、秩父神社(埼玉県秩父市)も妙見信仰と結び付きが深い神社です。水天宮(東京都中央区、福岡県久留米市)でも祭神とされています。
高御産巣日神は高木神社(東京都墨田区)に、神産巣日神は出雲大社の摂社である命主社(島根県出雲市)に祀られています。伊邪那岐神・伊邪那美神は多賀大社(滋賀県多賀町)や伊弉諾神宮(兵庫県淡路市)などが知られています。宇摩志阿斯訶備比古遅神・天之常立神・神世七代の第1〜6代を祀る神社は、ごく少ないのが実情です。
8. この後の物語(国生みから禊へ)
神世七代の最後の伊邪那岐神・伊邪那美神は、天つ神の命を受けて天の沼矛で海をかき回し、淤能碁呂島を得て結婚し、国土と神々を生んでいきます。ここから『古事記』は、名を並べる段から出来事を語る物語へ移ります。2柱の全体像は 伊邪那岐命 と 伊邪那美命 の記事で扱っています。 この場面は 国生み の記事で詳しく解説しています。
やがて伊邪那美命は火の神を生んで亡くなり、伊邪那岐命は黄泉の国から帰って禊を行います。禊で生まれた26柱については イザナギの禊で生まれた神々一覧 の記事にまとめました。禊の最後に生まれる天照大御神は、後に高御産巣日神と並んで天孫降臨を指図する神であり、天照大御神 の記事と合わせて読むと造化三神とのつながりが見えてきます。
国生みと神生みで生まれた島と神々は、国生み・神生み(まとめ) の一覧で生まれた順にたどれます。
9. 天地初発の神々をどう読むか
冒頭の17柱の大半は名前が記されるだけです。それでも順に並べると、天の中心、生成の力、葦の芽のような生命力、天と国の永続、雲と野、泥、芽生え、性別の分化、姿の完成、そして男女の神へ、という流れが読み取れます。世界が一度に完成するのではなく段階を踏んで整っていくという見方が、この並びには込められていると考えられます。
もうひとつ注目したいのは、最初の神々が「身を隠す」と記されていることです。その後の物語は伊邪那岐命・伊邪那美命以降の神々に委ねられますが、高御産巣日神と神産巣日神は要所で再び現れ、天孫降臨を指図し、五穀の種を作り、死者を蘇らせます。始まりに関わったものは表に出なくとも必要なときに働く、という考え方をここに見ることもできるでしょう。
現代の目で読むなら、この段は「ものごとの始まりは目立たない」と教えているようにも見えます。大きな物語の土台となった小さな段階を、ひとつずつ名前で呼んで記憶する姿勢が、『古事記』の冒頭には表れているのではないでしょうか。
まとめ
- 『古事記』は「天地初めて発けし時」で始まり、高天原に造化三神が独神として成り、身を隠したと記します。
- 造化三神に宇摩志阿斯訶備比古遅神・天之常立神を加えた5柱が別天つ神で、いずれも独神です。
- 続く国之常立神から伊邪那岐神・伊邪那美神までの12柱が神世七代で、独神2柱は1柱で1代、対の10柱は2柱で1代に数えます。
- 神世七代の神名は、泥、芽生え、性別の分化、姿の完成などを表すと解され、抽象から具体へ生成する過程と読まれています。
- 『日本書紀』本文は国常立尊から始まり、造化三神は一書第四にのみ見えるなど、冒頭の構成が『古事記』と異なります。
- 造化三神を祀る神社には東京大神宮・四柱神社などがあり、天之御中主神は妙見信仰と習合して千葉神社などでも祀られています。
ゆかりの社をたずねるなら:東京大神宮と近くの宿、秩父神社と近くの宿(神社めぐりと歴史旅の帳)
参考文献
- 倉野憲司 校注『古事記』岩波文庫
- 次田真幸 全訳注『古事記(上)』講談社学術文庫
- 三浦佑之 訳『口語訳 古事記[完全版]』文藝春秋
- 坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋 校注『日本書紀(一)』岩波文庫
- 西宮一民 校注『古事記』新潮日本古典集成
